2019年3月3日日曜日

9 いきなり小旅行?

友人が千歳空港まで迎えに来てくれ、集合時間までに数時間あったので、空港からゲストハウスがある札幌市までの約50キロの道のりは、一般道を使うことになった。電車や高速道路が走る場所を表とすると、私たちは裏を通ることになり、ほとんど車が通らない森の中を延々と走るルートだった。

あまり人の手が加えられていない自然のままの森が、道の両側から迫ってくる。「ああ、このエネルギー、北海道の森・・・」私は北海道に残っている、いや、本来「ソコ」(そして開拓された土地の「底」にも)にある野生の力を感じ取った。 

友人が途中立ち寄る場所をいくつか選んでくれており、私はすべて彼女にお任せだった。とはいえ、走っていると突然惹かれる場所もある。私も友人も同じように気になる場所が現れ、立ち寄ることにした。すると、長いスロープ状になった岩を流れ下る美しい滝へと導かれた。 

石と水と木々の穏やかで優しいエネルギーに触れると、私は懐かしさと安堵感に満たされた。ハートが喜びで外に向かって開いていき、森が私を迎え入れてくれているのを感じた。千歳空港ではなくここで初めて、私は北海道に来たと実感した。 

次に立ち寄った「龍神の水」と呼ばれる場所は、友人によると、これまで立ち入ることができなかったそうだが、その日はなぜか縄が解かれており、泉がある奥まで入ることができた。その泉の前で、友人が感じるままに弦楽器を奏でると、その優しく美しい音色に合わせて、私の口からメロディーが自然に流れ出た。 

通常私の歌う声は低いのだが、ここではびっくりするほど高い女性の声が出た。友人も弦楽器も女性のエネルギーに溢れており、私も女性のエネルギーで満たされ、その場のエネルギーと共鳴し合う。

歌は周りの自然を讃える祈りであり、その自然の中に今こうしていることへの感謝と喜びでハートがさらに開いていくと、それを受け止めるかのように森の空間にぽっかりと大きな口が開き、私のハートと自然がひとつに溶け合って森から空へと広がっていった。 

友人が、さらに奥へと入った所にある古い小さな神社へ案内してくれた。二人並んで参拝し、一礼を終えて本殿を眺めていると、突然ブーンと羽音を立てて、巨大なハチが一匹勢い良く飛んできた。スズメバチのような大きさで、私たちを攻撃するのかと思うほど、ストレートにこちらに向かってきて、1メートルくらい離れた空中で静止した。 

普通なら逃げるところなのだが、これまで、大木や岩の前などで祈る時、アブやハチが突然空中に現れて頭の周りで旋回してから去っていくということが何度もあったので、私は恐怖感はなかった。友人も同じように感じたのだろう。二人ともじっとしていた。 

目の前で、何秒間かの間ハチが静止した。私は、よく見えない目でハチをぼんやりと眺めていた。この時、友人はハチの顔がはっきり見えたそうだ。やがてハチは空中でくるんと方向を変えると、本殿の裏へと戻って行った。

それはハチの警告行動だと言う人もいるだろうが、私たちには(勝手な想像だが)、例えばメッセンジャーとして私たちに挨拶に来たというような、別の意味があるように思えたのだった。 

しかし、それは勝手な想像ではなかったかもしれない。
次に立ち寄った場所は、友人が間違えて行き着いた場所であったが、そこはメンバー全員で行き先を決める時に、そのうちの一人が言及した「観音岩山(八剣山)」と呼ばれる珍しい形の山が見える場所だったので、驚いた。間違えたが、結局間違えではなかったのかもしれない。 

私たちは木の下で弁当を食べ、しばらく山の風景を楽しんだ。山の写真を撮り、さあ車に乗り込もうとした時に、ふと足元に視線を落とすと、私の見えづらい目が何かに惹きつけられた。地面に転がっているその黄土色のものが何なのかわからないが、無視することができない。足でそっと触れてから手を伸ばしてみると、それはほぼ完全な形をした空になったコガタスズメバチ(?)の小さな巣だった。 

物事は物理的な事実だけを見て理性で処理する方法と、それを動かす根底にあるエネルギーを直感や感覚を通して読み取るという方法がある。このような形でハチの巣を見つけたことはインパクトを与えるものであったが、私はまだこの時は、ハチとの関わりがこれから展開する物事と数珠つなぎに繋がっていくことなど、知るよしもなかった。 

立ち寄る場所はこれで終わりで、あとは集合場所へ向かうだけだったが、どうやらもうひとつ残っていたようだった。運転していた友人が突然、なんだかこの辺りを覚えている感じがすると言うと、間もなく、以前タッチドローイングの合宿ワークショップを開いた場所が、森の中から現れた。 

沈黙の中から、巨大な何かが立ち現れたような感覚がして、私は鳥肌が立った。そこは、特別なエネルギーに包まれており、深いワークが行われた場所であった。これから集まるメンバー全員がそのワークショップの参加者であったこともあり、目に見えない何かが背後でうごめいているのを感じずにはいられなかった。 

このように、空港から集合場所のゲストハウスまでの道のりで過ごした数時間は、思わぬ濃い体験が詰まった小旅行と化したのだった。ゲストハウスにたどり着くと、既に何日も旅したような気分になっており、私は、何かひとつ仕事を終えたかのような疲労と安堵感に包まれたのだった。


恵庭ラルマナイの滝