「何か込み上げるものはありますか?」
「・・・喜びが込み上げます」
私はニヤッとした。部屋の隅で待機していた夫が、吹き出しそうになっている。
「冗談です。はい、大丈夫です。水を飲んでも気分悪くなりません」
ベッドのテーブルには既に夕食が用意されており、食事のトレーの端に、織姫と彦星の絵が描かれたしおりのような細長い厚紙が置かれていた。その日は七夕まつりの中日で、トレーに置かれた絵は、この日だけの特別なものだった。
「七夕かあ」
紙の両端でそれぞれ背中合わせになった織姫と彦星が、紙をクルンと曲げると向かい合い、曲げた紙が立つようなデザインになっている。
それをトレーの上に立てると、ふと「星との約束」という言葉が浮かんだ。
その夜、私は不思議な夢を見た。私は、感じるままに即興でピアノを弾いていた。柔らかい指の動き、分厚い和音が作り出す深く豊かな音色、滑らかな水の流れのようなメロディー、完璧な瞬間の連続、完全にリラックスして、フローの中にいる心地よさ・・・。
夢の中で、私は指を動かしてそれを弾いている側でもあり、離れた場所からその演奏を聴いている側でもあり、その両方を同時に体験していた。
すると、場面が変わり、私は自分が乗っていた何両も連なる黒い列車の一両目が夜空に向かって昇り始めるのを、離れた場所から眺めていた。七夕まつりの夜だったので、それはまるで宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の設定のようであり、空を昇っていくシーンは、さながら「銀河鉄道999」(観たことがないので内容は知らないが)を思わせるものだった。
術後の夜、8月8日の扉が開いた頃に見た夢の中で、私はピアノを即興で弾き、異空間へ向かう列車に乗った。これまで平面を走る電車の夢は何度も見ていたが、空へというのは初めてだった。
それは、次元の異なる体験、これまでにない世界への出発を漠然と暗示しているのだろうか。
それは、次元の異なる体験、これまでにない世界への出発を漠然と暗示しているのだろうか。
夢から覚めて、「星との約束」という言葉が再度浮かんだ。
私はどんな約束をしてきたのだろう。私にとって、魂の旅の羅針盤はハートの声と内なる感覚。これまで、その感覚を通じて思い出していく、私というかけらを見つけて取り戻していく旅であった。
私はどんな約束をしてきたのだろう。私にとって、魂の旅の羅針盤はハートの声と内なる感覚。これまで、その感覚を通じて思い出していく、私というかけらを見つけて取り戻していく旅であった。
そして今また、私は夢を通して沈黙の中で深奥と対話をしている。
私が羅針盤から目を離さないようと、ハートはシグナルを送ってきた。約束を意識するとしないとに関わらず、私はぴったりのタイミングでこの宇宙の流れの中を流れていくことをハートは知っているから、私は大船に乗った気分で自分の感覚を信じていれば良い、とハートは語りかけてくるのであった。
私が羅針盤から目を離さないようと、ハートはシグナルを送ってきた。約束を意識するとしないとに関わらず、私はぴったりのタイミングでこの宇宙の流れの中を流れていくことをハートは知っているから、私は大船に乗った気分で自分の感覚を信じていれば良い、とハートは語りかけてくるのであった。