2019年3月3日日曜日

19 チューニングされていない

今回再び小野さんを訪ねると、小野さんは新しいフルートをいくつか見せてくれた。

中でも印象的だったのが、意図的にチューニングしないというフルートだった。それは、基本的に穴を開けただけのもので、小野さんが吹くメロディーの中に、一瞬皮膚をかすめたり、ふっと体の奥が反応するような音が混じる。一定の枠の中で整えられ出来上がった美しい音色のものとは別の、違和感と快感の間にあるような不思議な体感を与えるものだった。  

その不思議な体感こそがリアルだった。そう、自然はこちら。これが元々のもの。

木があって、ある時誰かが地面に落ちている太い枝か何かを手にし、それをくりぬいて穴を開けて、息を吹き込んだら音が出たというようなことから始まったのではないだろうか。 

調律されていない、ある意味コントロールされていない音には耳が慣れていないからこそ、それは違った感覚を刺激するのだろう。今の時代には逆にこう言った野生的、原始的なものが退化した感覚を呼び覚ます大切な役割をするのではないかと私は思った。 

気温や湿度、天候、場のエネルギーによっても変化する音を、まさにそのように物理的にも感情的にも刻々と変化する生き物である自分が扱う。

それは、この宇宙にありのままに存在すること、地球・自然と歩調を合わせて生きることと深く関係しているように思え、改めてラブフルートの深みに触れたように感じた。