2019年3月3日日曜日

2 「弱視」という言葉を突きつけられた

網膜剥離の手術では目の中にガスを注入するため、ガスが完全に抜けるまでは飛行機に乗れない。そのため、私は帰国を延ばし、アメリカの友人宅で静養していた。

あれは、網膜剥離の手術から10日後くらいのことだったろうか。夜、夢を見た。それは夢というよりも、メッセージだった。映像シーンも脈絡もない中に、突然、灰色っぽい背景に「弱視」という文字だけが現れた。その二文字は黒い太字で視界いっぱいに表示され、あまりにも強烈だったので、その言葉を見た瞬間、私は仰天して目が覚めてしまった。 

弱視などという熟語は、私の日常の語彙にはない。それが、大アップで目の前にバーンと表示されたのだから、私はこれから起こる事実を突きつけられたと思った。口に出すと現実になってしまうのではないかと怖れ、このことは人には話せなかった。視力を取り戻した今だからこそ、語ることができるのである。 

術後のケアは、帰国後地元の病院にバトンタッチすることになった。既に始まっていた白内障が少しずつ進行しており、網膜剥離の後遺症で網膜の上に膜ができているため、網膜の様子を見つつ、いずれはその膜を物理的に取り除く必要がある、と医師に告げられた。白内障が始まっていることは知っていたが、膜については寝耳に水だった。